いののすけのブログ

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少女漫画感想1~咲坂伊緒恋愛女子短編集~

 読んだ少女漫画の感想を簡単にでもいいので、少しずつ残していこうと思っています。最初は咲坂伊緒先生の短編集『咲坂伊緒 恋愛女子短編集 君ばっかりの世界』と『咲坂伊緒 恋愛女子短編集Ⅱ マスカラ ブルース』についてです。

※以下ネタバレを含みます。

 

 まずは作品の概要です。咲坂伊緒恋愛女子短編集はそれぞれ2014年と2016年に集英社文庫より発売された、2冊で計11作品が収録された短編集です。作品は2001年から2007年の間に雑誌に掲載されています。

 全体を通して印象に残るのは、付き合うまでの葛藤する時間や思いがすれ違う場面の表現力です。咲坂伊緒先生の作品は後の『ストロボ・エッジ』や『アオハライド』でもそうですが、好きになってから付き合うまでの時間が長いです。その間に気持ちが揺れ動き、思いを伝えるかどうかで葛藤し、逡巡します。それらを表現するモノローグやコマ割りがとても印象的で、そこの表現にすごく惹かれたので、自分は咲坂伊緒先生の作品が好きなのだというのを、改めて感じました。

 以下ではそれらの描写を中心に、印象に残った作品を振り返ってみようと思います。

 

1.君ばっかりの世界

 『君ばっかりの世界』はデラックスマーガレット2004年5月号に掲載された作品です。中学3年の野球部の最後の試合で負けたことに対し「悔いだらけです」と素直に吐露した男子と、それを聞いて恋をした女子の関係が中心となっています。この作品で印象に残るのはラスト20ページ程の帰り道での場面です。お互いが相手は自分じゃない誰かを好きだと思い込み、それでも好きだと伝えたいと思い、葛藤します。その間の心の揺れを丹念に描いているので、最後思いを伝え合うまで気持ちの揺れを追体験するような感覚になりました。モノローグやコマ割りにとても魅せられ、まさに自分が好きな咲坂伊緒ワールドがぎゅっと詰まった短編でした。

 

2.明日見る夢

 『明日みる夢』はデラックスマーガレット2005年7月号に掲載された作品です。好きな男子と同じクラスになり、友達の関係になってしまったことで告白ができず、その間に別のクラスの女子がその男子にアプローチしだすという作品です。この作品は一場面が印象に残っています。それは別のクラスの女子と会った際に「自分が別のクラスだったら告っていた」と伝え、それに対し「ほんとに?」と返された場面です。この「ほんとに?」のあとに真顔で向かい合う二人の描写が1ページ挿入されているのですが、たった一言ながら力強い言葉とその後の余韻に思わず引き込まれました。また最後結局失恋し、後悔を抱えながらも前を向くラストも印象に残りました。

 

3.ピカピカオレンジ

 『ピカピカオレンジ』はデラックスマーガレット2004年1月号に掲載された作品です。第一志望に落ちてしまったために腐っていてクラスでも孤立している女子と、その女子に話しかける男子の作品です。男子に気持ちをぶちまけることがキッカケで世界の見方が変わって事態が好転しはじめ、最終的にその男子を好きになるという王道展開ですが、1ページ使って表情の変化のみで気持ちを描き出す箇所や、最後のモノローグが印象的で、これも咲坂伊緒先生の魅力を感じる作品でした。

 

4.ロマンスの輪郭

 『ロマンスの輪郭』はデラックスマーガレット2007年1月号に掲載された作品です。バス停で転んだ時に助けてくれた男子がいて、その男子と同じ特徴を持つものの性格が苦手な男子との恋愛を描いた作品です。徐々に惹かれていくものの嫌われていると男子に勘違いされ、それでも好きという思いを言葉にしたいと思い立ってからラストまでの疾走感が心地よく、また連ねられていく言葉もテンポよく、読後感の良い作品でした。

 

 全体を通して『ストロボ・エッジ』以降の長編作品にも連なる咲坂伊緒先生の作品の魅力がたっぷり詰まった短編集で、とても楽しく読みました。咲坂伊緒先生の作品に関してはまだ語りたいこともありますが、それは次回以降長編の感想を書く際にさらに踏み込んでいこうと思います。

 次回は咲坂伊緒ストロボ・エッジ』の予定です。